産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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化学物質の法規制-10 発がんのおそれのある有機溶剤

2014年04月


有機溶剤として使用されているものでも、発がん性のおそれがあるものは、特化則の対象物質となっています。
最近、特化則の対象物質となったものには、エチルベンゼン(25/01)、1.2-ジクロロプロパン(25/10・胆管がん)があります。

現在、有機則の対象物質となっているものの中にも、発がんのおそれのあるものがあります。
それは、IARC(国際がん研究機関)で、発がん性の評価が
1   ヒトに対して発がん性を示す
2A   ヒトに対しておそらく発がん性を示す
2B   ヒトに対して発がん性を示す可能性がある
に区分されている10物質です。物質名は、下記を参照してください。

これらの有機溶剤については、リスク評価検討会→健康障害防止措置検討会の議論を経て、「職業がんの予防の観点から健康障害防止措置を講じる必要がある」と結論づけられました。(26/01)

この報告書を受けて、厚労省では、関係政省令の改正を予定していますが、法令改正を待たず、速やかに下記の措置を講ずるように通達が出されました。

≪基安発0129第1号(概要)  平成26年1月29日≫

【発がんのおそれのある有機溶剤】
クロロホルム スチレン 四塩化炭素 1.1.2.2-テトラクロルエタン
1,4-ジオキサン テトラクロルエチレン  1.2-ジクロルエタン
トリクロルエチレン ジクロルメタン メチルイソブチルケトン

上記の有機溶剤を製造、または使用して作業を行う場合は、有機則に基づく局所排気装置の設置など、ばく露低減措置を取ってください。
また、作業記録を作成し、作業者の健診結果、作業環境の測定記録等と共に保存してください。
併せて、事業場内に有害性についての情報を掲示してください。

【取扱う際の措置】
1 作業記録の作成
常時、従事者について、1カ月毎に次の事項を記録しましょう。
(1)労働者の氏名 (2)従事した作業の概要、作業に従事した期間
(3)著しく汚染される事態が生じたときは、その概要と応急措置の概要

2 記録の保存の延長
健康被害が発生するまで時間がかかることがあるため、記録は30年間保
存しましょう。
書面による記録の他、電磁的記録による保存でも構いません。
(1)作業記録 (2)有機溶剤等健康診断個人票 (3)作業環境測定の記録
(4)作業環境測定の評価の記録

3 有害性等の情報の掲示
作業者が見やすい場所に次の事項を掲示しましょう。
(1)有機溶剤の名称 (2)人体に及ぼす影響 (3)取扱上の注意事項
(4)使用する保護具

【「発がん性」のIARC区分と主な「用途」】

◆クロロホルム  IARC 2B
マウスを使った2年間の試験で発がん性が認められた。
(用途)  フルオロカーボン原料、試薬、抽出溶剤(農薬、医薬品)

◆四塩化炭素  IARC 2B
ラットとマウスを使った2年間の試験で発がん性が認められた。
(用途)  他の物質の原料、試験研究または分析

◆1,4-ジオキサン IARC 2B
ラットとマウスを使った2年間の試験で発がん性が認められた。
(用途)  抽出・反応用溶剤、塩素系溶剤の安定剤、洗浄用溶剤

◆1,2-ジクロルエタン (別名二塩化エチレン) IARC 2B
ラットとマウスを使った2年間の試験で発がん性が認められた。
(用途) 塩ビモノマー原料、エチレンジアミン、合成樹脂原料(ポリアミノ酸樹脂)、フィルム洗浄剤、有機溶剤、混合溶剤、殺虫剤、医薬品(ビタミン抽出)、くん蒸剤、イオン交換樹脂

◆ジクロルメタン (別名二塩化メチレン) IARC 2B
ラットとマウスを使った2年間の試験で発がん性が認められた。
(用途)  洗浄剤(プリント基板、金属脱脂)、医薬・農薬溶剤、エアゾール噴射剤、塗料剥離剤、、ポリカーボネートの反応溶剤、応溶剤、ウレタンフォーム発泡助剤、繊維・フィルム溶剤、接着剤、その他溶剤

◆スチレン IARC 2B
(用途) 合成原料(ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、合成ゴム、不飽和ポリエステル樹脂、塗料樹脂、イオン交換樹脂、化粧品原料

◆1.1.2.2-テトラクロルエタン (別名四塩化アセチレン) IARC 2B
(用途)  溶剤

◆テトラクロルエチレン (別名パークロルエチレン) IARC 2A
ラットとマウスを使った2年間の試験で発がん性が認められた。
(用途) 代替フロン合成原料、ドライクリーニング溶剤、脱脂洗浄、溶剤

◆トリクロルエチレン(トリクロロエチレン) IARC 1
(用途) 代替フロン合成原料、脱脂洗浄剤、工業用溶剤、試薬

◆メチルイソブチルケトン(MIBK) IARC 2B
(用途) 硝酸セルロース、合成樹脂、磁気テープ、ラッカー溶剤、石油製品の脱ロウ溶剤、脱脂油、製薬工業、電気メッキ工業、ピレトリン、ペニシリン抽出剤

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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